その年のある日、ブルーパークのクリスマスツリーの銀の星が盗まれた。銀の星は本物の星くずで出来ていて、僕の住む一日中真っ暗な夜の国を、そのツリーのてっぺんの銀の輝きが、いつも照らしていた。町で暮らすみんなは、光がなくなって困っていた。僕の学校でも、銀の星を盗んだ犯人は誰だ？　という話題で持ちきりだった。

 

　この街には、何人かの魔法使いがいる。魔法使いたちは、大昔に別の世界から来た魔法使いたちの末裔なのだ。銀の星は、彼らとの友愛の証に、夜の国に光をもたらそうと渡された魔法の星だった。魔法使いたちも、銀の星がなくなって悲しそうだった。

 

　僕のクラスのチアキ君は魔法使い。彼はそんな悲しい話の渦中でも、いつも明るく振舞っている。今日も授業中に歌をうたっていた。プルボン、アクセヌ、ラグナオリーン、テンチル、などと、意味のないことを繰り返している。彼は授業中に、隣の席のマキちゃんの筆箱を宙に浮かせたり、バレーの試合中にコートを四分割にしてしまったり、そういう悪戯が大好きだった。彼は勉強ができて性格も明るかったから、みんなに好かれていた。引っ込み思案の僕は、そんな彼の飄々とした性格に少なからず憧れがあって、いつも彼をよく見ていた。

 

　ある夜、ふと目を覚ました僕は、窓から見えるブルーパークの真ん中、銀の星をとられて寂しくなったクリスマスツリーを見つめていた。やけに闇が澄みきっていた。僕はその噴水の上に立っている人影を見つけた。人影は僕の学校と同じ制服の上にコートを着て、噴水の上で手のひらのものを眺めながらげらげら笑っていた。その声を聴いて、それがチアキくんだと悟った。僕はベッドから跳ね起きて、コートを羽織ってブルーパークまで急いだ。

 

　チアキくんは僕がパークに辿り着いたとき、噴水の上で両手を広げて笑っていた。手には銀の星が握られたままだった。

「チアキくん、何してるの？」

「誰だ？　お前」

　夜の町ではクラスメイトの顔でさえ紛れる。仕方ないので名乗った。

　すると彼は、

「ここにおいでよ」

　といって、杖をひと振り、僕の身体は宙に浮いて噴水のてっぺんへ運ばれた。そこからは夜の国を一望できた。中心街の色とりどりのライトも、僕たちの学校の屋上のランタンも見えた。

「ここに座ると、この街を全部手に入れたって感じがする」　チアキ君が言った。

「セントラル・タワーの飛行灯も、ブルーパークの銀のクリスマスツリーも。この夜景、隅から隅までおれのものなんだって」

「チアキくん」

　僕は彼に話す。

「みんな、その星がないと困るんだよ」

　するとチアキくんは笑うのをやめて、小さな声で言った。

「この星は、魔法の国の宝石なんだ」

　銀の星は、魔法使いがいないと光らないらしかった。この夜の国との友好を築いた魔法使いたちは、光を灯す役割を買って出て、魔法の国へは二度と戻らなかったという。

「すぐに返すよ。触ってみたかっただけだ。あったかいんだな」

　チアキくんは寂しそうな声で言った。

「おれの国も、あったかいのかな」

　チアキくんは泣いていた。僕は彼のそばを離れることができなかった。

「このこと皆に言う？」

「言わないよ。約束する」

 

　翌日、クリスマスツリーの星が無事にかえっていた。銀の星は今日も明るく、この夜しかない町を照らしている。

　そしてチアキくんは、今日も変わらず意味のない呪文を言って、みんなを悪戯で笑わせている。

 

（了）